ご案内お知らせ短編連載「マスカレイド」書評動画
自作小説(短編中心)と書評(というか感想文)。 ジャンルはミステリィが主体です。
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2007.04.09 Mon
はみ出し者ばかりの演劇サークルに、入団を希望してきた女の子、佐々木飛鳥。一見平凡な彼女には「演劇の本能」が備わっていた。彼女を目覚めさせるのは、スター女優東響子の存在。あたしはあなたと同じところに行きたい――。熱狂と陶酔の演劇ロマン。

恩田にしては珍しく、終始一貫明るい印象の話。

恩田は学生時代に演劇を経験していて、彼女の作品にはその名残を認められるものが数多くあります(デビュー作「六番目の小夜子」を始めとして長編のほぼ半数が「演じること」を扱っています)。
ですが、演劇そのものをメインテーマにおいた作品って、実はあまりない。というか、「中庭の出来事」と本作の二作しかないような気がします。
つまり、とっておきのネタなのです。

演じること。芝居を作り上げるということ。
俳優、女優、脚本家、監督、そして観客。
緊張と高揚、そして一体感。
伝わってきますよ。
本当に、わくわくしながら最後まで読みました。
演劇なんて、全然興味なかったんですけど、食わず嫌いだったのかな。何か観に行ってみようかなとか、思ってしまいました。

もう一つ、別の視点から。
飛鳥はこれでもかってくらい天才です。
演劇の天才であるだけでなくて、把握、分析、展開の能力を完璧に揃えている。探偵、小説家、それともアスリート、どの立場にいたって天才として評価されるでしょう。
そして、そんな天才を主人公にして物語を作るのって、実は難しい。
理由は二つで、まず読者が感情移入しにくいこと。次に主人公の成長が描き難いことでしょう。
(馬鹿を言うな「金色のガッシュベル!!」の主人公は天才じゃないか、と指摘する人もいるかもしれませんが、彼は頭脳の面では天才ですが何でもこなせるわけではなかったはずです。)
じゃあ恩田はどうやったかというと、飛鳥に一人称視点を置かないことで感情移入の問題をクリアし、さらに飛鳥の能力に一つだけ欠陥を作ることで成長の余地を残したのです。
さすがにそつがない。勉強になります。

問題点を挙げると、キャラの書き分けか。
特に小松崎と芹澤は同じ類型に入ってしまっていると感じました。
とっても些細ですが。

あとはややご都合主義な展開。
いや、私は全然ありだと思いますけど、ね。
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2007.04.14 Sat
 食事が始まってから数分の間は、箸を動かす音しかしなかった。
 誰も口を利かない。
 私がいるから、だろうか。それとも普段からこの家は、食事中に会話を楽しむということがないのかも知れない。
 水星の報告書を思い出す。彼は勝春について、『基本的に家族との間に会話はない』と述べていた。『家族の関係に不和があるわけではなく、単にお互いの生活に干渉しない、という方針の現れのようである』とも。
 勝春を窺うが、硬直した笑みに覆われた顔からは何も読み取ることは出来ない。
 緑も、梢も、淡々と箸を口に運ぶだけだ。
 これが……、家族というもの、なのだろうか。
 私と母との間にあった強すぎるほどの絆は、ここにはどこにもなかった。
 どちらが良かったのだろう、と考えるが、今更の話だ。
「この揚げだし豆腐、ほんまに美味いですな。これ、緑さんのお手製ですか」
 沈黙に耐え切れなかったらしく、最初に口を開いたのは空木だった。
 威嚇するような天神の面から、のんびりした関西弁が出てくるのは滑稽だった。
「いいえ。私が作ったのはかき揚げと、酢の物と、あとは汁物ぐらいです。他は皆、町の料亭で作ってもらいましたの」
 失策である。しかし、空木のフォローは早い。
「へえ。さすが、良い店知ってらっしゃいます。その料亭、教えてもらえませんやろか。いや僕、こう見えても和食には結構うるさいんですが、なかなかこれといった店が見つかりませんよって」
「あらそうなんですか。では今度ご一緒にいらっしゃいます?」
「いやあそれは有難い。是非に」
 自然に雰囲気を良い方向へ持っていった。もしこの状況に陥ったのが自分だったら、ここまでうまく対応できなかっただろう、と考えた。
 私にはトラブルを処理する能力が不足している。ならばトラブルは起こさないことだ。軽率な発言は控えるべきだ。ましてや私は、彼らの心情的には『招かれざる客』なのだから、一歩踏み間違えれば取り返しのつかない状況を作ることになるだろう。
 空木と緑は、この辺りでおすすめの料理屋を話題にして、和やかに会話を続けていた。そこに金山も時々話に加わって、少しだけ祝いの席らしい、賑やかな食卓になる。
 私と梢、そして勝春は……、互いに様子を見ながら、相変わらず口をつぐんでいた。
 六枚の仮面が、時折視線を交わす。
 作り物の顔。声だけが、明るく響く。
 何を考えているのか。
 見えるのはただ唇。食べては喋る、唇の動きのみ。
 これは宴。――あやかしの、宴。
 皿が半分ほど空になった頃、再び会話が立ち消えた。
 かちかちと、箸が皿に触れる音だけが、耳に聞こえる。
 今度は空木も、静寂を破ろうとはしなかった。
 空気が重くなる。
 能面たちが、ちらちらと揺れる。うつむきながら、上座を気にしている。
 皆が待っているのだ。主人の言葉を。
 勝春は箸を置いて、お猪口をあおった。
 ことり。
「どうだ、楽しんどるか」
 私は顔を上げる。勝春がこちらを見ていた。いきなり私に振るのか。
 戸惑いながら、答える。
「はい、とても美味しく頂いております」
 翁面は、私の社交辞令にほんの軽く頷いた。
「突然呼び出して済まんかった」
「いえ。お招き頂いて光栄です」
 私は勝春の唇を注視する。
 老人の、乾いた唇。
 緑が酒を勝春のお猪口に注ごうとする。勝春はそれを手で制し、厳かに言った。
「私に残された時間は少ないのだ。本題に入ろう」
 本題。唾を飲む音は、誰が立てたものだったか。
「今日ここに皆に集まってもらったのは、私が死んだ後の、資産の扱いについて話しておきたかったからだ。緑、梢、そして昌吾。お前たちには法律上、私の遺産を相続する権利がある」
 ざわり、と何人かが身じろぎする。
 ここまでストレートに言うのか。腹の探りあいは終わりだと。
「昌吾については私が認知せんかったから、戸籍上は他人だが、なに、DNA鑑定でもすれば親子関係は証明できるだろう。法的には、緑が遺産の半分、梢と昌吾が四分の一ずつということになるな」
 ――法的には。
 つまり、遺言がなければという話である。
 遺言が残されていた場合、遺言によって指定された配分が法律に優先する。
 誰がどれだけ相続するか。勝春が全てを決めるのだ。
「――昌吾、お前とお前の母親には辛い思いをさせた」
「済んだことです」
 このタイミングでそれを言うのか。
 何が言いたい、真山勝春――。
「お父さん!」
 声を荒げて割り込んだのは梢だった。
「一体何を、まさかこの人に」
 およしなさい、と緑が嗜めた。梢は唇を噛んで顔を逸らす。
「梢。お前の気持ちもわからんわけではない。私だって昌吾に会うのはこれが初めてだ。はっきり言って、風間昌吾は真山家にとって他人以外の何者でもない。血は繋がっているが」
 ――勝春の言葉は正論だった。
 真山勝春。
 実の父親とはいっても、この男が私の人生に登場したのは今日が最初なのだ。たとえ実の親子だろうと、そこに家族としての関わりはない。
 しかし……、
「しかし梢、お前が相続するのなら、同じく実の子である昌吾にも、遺産を残さんわけにはいかんだろう」
 そうだろう。それが自然な考え方だ。
 ならばどうする?
 遺言など残さず、民法に定められた通りの配分のままにしておくのか。
 それとも若干、私の相続分を減らして……、
 だが次の瞬間、勝春は予想もしないことを言った。
「私がどう決めたところで、わだかまりは残る」
 ――困惑。
 何を言い出したのだ。だからどうすると言うのか。
 よく通る声で、勝春は続けた。
「遺産を巡って争うなぞ、醜いことになって欲しくない。だから――、」
 ――だから?
「だから私は誰にも残さんことにした」
 ――な、
 思考が凍る。
 緑も、梢も、口を呆然と開いて。
「死後の全財産を伝統文化保存のためのボランティア団体に寄付する。今朝までに遺言状を書き上げるから、金山、処理を頼んだぞ」
 見上げた翁の顔は、満面の笑みをたたえていた。
2007.04.18 Wed
ルーブル美術館館長が異様な死体で発見された。彼が死に際に残した幾つもの暗号は、館長の孫娘のソフィーと、象徴学者ラングドンを聖杯伝説の秘密へと導く。事件の黒幕「導師」より先に、二人は聖杯へとたどり着くことが出来るか。ラングドンシリーズ第二作。

今更ですよ。みんな知ってる「ダ・ヴィンチ・コード」。

この作品の際立った特徴は、何といっても歴史知識に埋め尽くされた文章です。
台詞だろうが地の分だろうが、ストーリィに関係あろうとなかろうと、とにかく容赦なく細々とした雑学が披露されます。主人公のラングドンなんかは、台詞の半分以上が知識のひけらかしだったような気さえします。
その殆どが宗教史に関する魅力的なトリビアだったので、私は楽しめたのですが。とはいえ、宗教に対して全く無関心の国日本で、記録的なベストセラーになったというのは、不思議でなりません。

ストーリィは中盤、やや失速しています。しかし終盤ではどんでん返しを幾つか盛り込むことで、勢いを取り戻してクライマックスへ。流石にプロ。
何故か私は、本筋である聖杯探求と、主人公たちの逃走劇よりも、シラスとアリンガローサのエピソードの方が心に残ったのですが。

前評判の割には、今一つだったというのが正直な感想。
どこをとっても、もっと完成度の高い作品は幾らでもあるでしょう。
人物の描写は平板になりがちでしたし、アクションシーンは訳が下手なのか、どうにもテンポが悪い。

致命的な難点は、ラングドンシリーズ第一作である「天使と悪魔」に作風・プロットが似すぎていること。
思いつくだけ挙げてみると、
突然呼び出されて事件に巻き込まれる主人公、
現れる若く知性的なヒロイン、
歴史的な宗教勢力同士の対立、
教会や遺跡を巡りながらの追走劇/逃走劇、
襲い来る暗殺者、陰で糸を引く謎の男、
とこれだけ同じだと、作者の守備範囲の狭さが浮き彫りになってしまったという印象が拭えません。

勿論、見所が全くなかったわけではないですよ。
カッコいい台詞が随所に落ちていて、おお、と。

例えば、

「わたしはふたつの暗号を解けなかったのよ、ロバート。〈岩窟の聖母〉――"Madonna of the Rocks"。三つ目をはずすわけにはいかないでしょう?」

「シラス、祈りなさい」

「これからどこへ向かうおつもりですか」
「自分でもわからないものだよ。きみもそうだろう」

なんかは痺れました。

全体通しての評価は100点満点だと69点くらい。
一体何故皆あんなに褒めていたのかなあ……。
マスコミの力だろうか、などと。
2007.04.22 Sun
昭和二十五年の金閣寺焼失事件を材に取った作品。
生来のどもりと醜い容姿のために、孤独を抱える若い学僧。彼はいつしか金閣の完全な美に魅入られていた。金閣の幻想は彼を縛り、大人の男としての生を阻む。彼が見出した救いの道は一つ、『金閣を焼かなければならぬ』。

実は、三島由紀夫といえば右翼でバイセクシュアル、ぐらいしか知らないのです(失礼にも程がある)。
ものかき未満とはいえ、小説を書いてしまっている人間としては己の無知を恥じるばかりなのですが、逆にそのために、本作を先入観なく読めたと思います。

まず目を引いたのは、一つ一つのエピソードの密度が濃いこと。
どの場面もが暗示的、運命的であり、絡み合いながら主人公の人生に影を落としていきます。
そしてそれらのエピソードを効果的に配置する緻密な構成。
登場人物も必要最小限の人数が、適正な位置に配役されている。
内容の難解さ、深遠さにもかかわらず、読者は安心して作品に入っていけます。
読まれることを意識して書かれた小説だな、という印象を受けました。
高校時代、興味本位で志賀直哉の「暗夜行路」に手を出して以来、純文学って読みにくくて当たり前のものだと思っていたのですが、どうやらそうではないらしい。

肝心の内容ですが、主人公に感情移入できるかどうかで、評価が分かれる作品だと思います。
心に疚しいところのない人、強力なコンプレックスを抱えていない人は、主人公も、この小説自体も全く理解できないのではないでしょうか。
幸か不幸か(間違いなく不幸ですが)、私は心に疚しいところが大いにあり、常に巨大なコンプレックスを抱え込んでいる人間なので、共感する部分も少なくありませんでした。
例えば自己嫌悪を中核とした強烈なナルシシズム、行き過ぎた美意識、外界と内界の隔絶なんかは、どれも私にとっても縁のないものではないので、頷きながら読んだ、ということを告白しておきます。

がしかし、どうしても共感を拒むのは、金閣についての主人公の妄執です。
これは作中の表現を抜き出せば、「金閣の美の与える酩酊が私の一部分を不透明にして」いるのであって、その不透明さゆえに、説明は殆どされません。
主人公の美意識には既に、男性性(ジェンダ・アイデンティティ)における美として鶴川、女性性(ジェンダ・オリエンテーション)における美として有為子が設定されています。どちらも主人公の劣等意識に裏打ちされており、強固なものです。
それなのに何故主人公は、これらを超越する形で、普遍的な美というものを考えるのでしょうか。父の影響が生み、当人の内向性が育てた、と理屈はわかるのですが、納得できない。

もう一つわからなかったのは、ラストシーン。
ネタバレになるのが嫌なので詳しく書きませんが、私には不自然な展開に感じられました。
ひょっとして、現実の金閣寺放火事件の犯人をなぞっているから、時々作者の書きたい人物像と実際に書く人物像との間に乖離があるということなのでしょうか。

ただ単に、私の読解力と感性が足りないだけ、という気もしますが……。
2007.04.24 Tue
誰よりも速く走り抜ける少年、成雄。名字と幼少の記憶はなく、背中には鬣がある。限界を捨てて彼が行く先にあるものは。

「山ん中の獅見朋成雄」のパラレル。
「山ん中の……」はじっくり読ませる、どちらかといえば堅実な青春小説だったと思いますが、本作はさらっとした読後感の、しかし挑戦的な前衛小説、といった雰囲気です。
――いや、純文学は専門じゃないんで、安易に断言はしませんが。

共通した主題が、幾つかの並行する世界に断片的に描かれていて、気がつくとそれらが一つの物語を構成している。と言葉で説明してもきっと全然わからないでしょう。
舞城の得意な手法で、「好き好き大好き超愛してる。」なんかもそう。
キュビズムなのか。
成功しているのかどうかすら、私にはわかりませんけれど……。
何か面白そうなことやってるな、という感じで読んでいます。
今回の主題はきっと、「人は一人では生きていけない」だったのではないでしょうか。ベタですけど、ベタ嫌いじゃないです。

とにかく良いのは軽快な文体。
って、タイトルが「SPEEDBOY!」でのろのろした文章だったらキレますが。それにしても読み易くて爽快感がある。
たとえSF設定だろうと、純愛だろうと、内面の葛藤だろうと、歪んだ家族との関係だろうと、どんなにわかりにくく説明を要するようなシーンでも、直感的に訴えかける、読みやすい文で書ききってしまう。
一体どうやったらこんな書き方が出来るんだろう。逆立ちしても真似できません。

それにしてもまだまだ全貌を見せない舞城。
というか、私に見えていないだけなんでしょうか。
悔しいなあ。もっと文学的なセンスを磨きたい今日この頃。
2007.04.28 Sat
国名シリーズ第三弾にして火村シリーズ第二短編集。
フィールドワークと称して事件捜査に参加し、鋭利な推理で犯罪者を断罪する火村。友人であり記述者である有栖川は、彼を臨床犯罪学者と呼んでいる――。

ここで短編集の書評するのって、ひょっとして初めてでしょうか。
とりあえず一編ずつコメントを。

ブラジル蝶の謎
アリバイ崩しのアイディアが光りました。でも無駄は多い。
ラストシーンのクサさも気になる。火村シリーズって、多かれ少なかれこういうとこあるけど、作者はカッコいいと思ってやってるんだろうな……。

妄想日記
これもラスト数行のアイディアが秀逸。
が、それがどうした、といわれればそれまでのような。ミスリードに使われたあのネタも中途半端。

彼女か彼か
この短編集の中で一番出来がいいという印象。
トリックもインパクトがある。
ただし、「蘭ちゃん」のキャラはステレオタイプすぎ。


ラスト三行で唖然。ありですか。ありなんですか。
私たちの世代で、あれをまともに知ってる人がどのくらいいるんだろうか。私は本で読んだことしかないんですが。ってあんまり言うとネタバレだよな。
作品としての完成度はそれほど高くないと。これもアイディア勝負。

人喰いの滝
雪密室。トリックは非常に簡単で、機会があったら一度試してみたいです。ただ、よくよく考えると非合理なような……。
火村と有栖川の関係がよくわかる一編でもありました。
たしか漫画化されていたはず。

蝶々がはばたく
社会派を目指したのか、な。
正直トリックは「知るか!」って感じの代物なので、見所は生き生きとした団塊世代の青年たちでしょう。オチは狙いすぎ。

以上六編。
シンプルかつスマートなトリックを一つ、コアに置いて書いた作品ばかり。
ダイアモンドの原石をずらっと展示したような。
もっと練り込めばどれもこれも充実した長編になるのになあ。
もったいない……と思うのは、万年ネタ切れ物書き未満の妬みか。
2007.04.29 Sun
「雪の山荘」「孤島」「館」を舞台に事件は起きる。フーダニット・ハウダニット・ホワイダニット、全部揃えた短編集。

まずは一編ずつ。

そして名探偵は生まれた
アンチのような、アンチのアンチのような。でも雪密室。
突き詰めた虚構性。びっくり物理トリック、そして大どんでん返し。
こういうの好きです。武邑シリーズ続編期待。――ないだろうけど。

生存者、一名
『絶海』アンソロジィに収録されていたものを読んでいるので、再読になりました。
上手いです。最後の一行で作者の哄笑が聞こえてきました。
このトリックのインパクトの大きさ。前例のあるものですが、上手く料理した、という感じ。伏線も大胆。

館という名の楽園で
メタで、ややアンチ。
ヒントが出すぎているため、トリックが丸わかり。
オチはベタ。全体としてどっかでみたような話。

通して。

とりあえず帯は嘘八百でした。「三大密室トリック」「密室トリック三部作」って。本当に密室なのは表題作だけですが?

「Rommy」以降の歌野の特徴ですが、どの話でもトリックがストーリィに深みを持たせている。これぞミステリィ小説の理想的なあり方、という気がします。
2007.04.30 Mon
断章「勝春」

 革張りの肘掛け椅子に体重を預けて、老人は背後の闇に呼びかける。
「私が憎いか」
 絞り出した声に、答えるかのように闇が揺らいだ。
 憎かろう。
 私はお前から幸福な人生を奪った。
「仕方なかろう。私とて自分の家庭が大事だった」
 言い訳にすらならぬ。
 だがそれが本音だった。
 愛した女であろうが。自分の血が流れる息子であろうが。――私は自分の平穏が乱されるのが怖かった。彼女に僅かばかりの手切れ金を渡して、私の人生から退場してくれるように頼んだことを、今でも後悔はしていない。
「後悔なぞしていない」
 断言できる。
 ――しかし声は震えた。
 背後の気配が膨れ上がるのを感じる。怒っているのか。
「何故今更、と思っておるな」
 ぎしり、と椅子の中で身じろぎする。
 後ろから闇に、背中を突かれた。
 急に胸が苦しくなって、呻き声が漏れる。
「――けじめだよ。何も言わずに死ねばお互い悔いが残ろう」
 胸に手を当てながら、思う。この体はもう長くない。
 意識が遠のく。
 じりじりと背中に忍び寄っていた影は、役目を終えたとばかりに薄れ始めた。
 まだ、まだだ。
「待て」
 終わっていない。私の最後の舞台は。
 覚束無い手で、卓上に置かれた面を取る。
 手も体も震わせて、それでも何とか、顔に被せた。
 ――恵美。
「お前は――」


断章「緑と梢」

 台所。
 二人の女が、並んで皿を洗っている。
 水が流れる音。皿を擦る音。食器が触れ合う音。
 きゅるきゅるかちり。きゅるきゅるかちり。
 二人はまるで機械のように、黙って手を動かし続ける。
 きゅるきゅるかちり。きゅるきゅるかちり。
「――嫌な夜ね」
 小太りの若い女が、手を休めぬまま言った。
 隣の老女は答えない。かちり。
 若い女は返事を諦めて、今度は独り言として口にする。
「本当に、嫌な夜だわ」


断章「金山と空木」

 男はソファに寝転がって天井を見上げていた。
 大して飲んだつもりはなかったのだが。少し酔ったかもしれない。
 天井の木目をぼんやり眺めていると、ドアの開く音がした。
 目をやると、燕尾服の初老の紳士である。男の姿を見て眉をひそめる。
「そんなところでお眠りになりますと、風邪を引きます」
「寝てやしまへんて。それに、馬鹿は風邪を引きまへんし」
 燕尾服も向かいのソファに腰掛ける。
 男は、よっこらせと声をかけて起き上がり、スーツの皺を軽く伸ばした。
 軽く眩暈がした。やはり酒が回っている。
「――ばれてまいました」
 男が唐突に呟くと、燕尾服ははっとして目を上げた。
「何を、どこまでです」
「僕のこと」
「はあ。それは――、」
「些細なことですけど。きっと」
 それきり二人とも俯いて押し黙った。
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