ご案内お知らせ短編連載「マスカレイド」書評動画
自作小説(短編中心)と書評(というか感想文)。 ジャンルはミステリィが主体です。
--.--.-- --
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2007.07.14 Sat
 ――朝。
 朝食の準備が出来ました、と緑が呼びに来たので、続いて階下に降りる。
 昨夜奇妙な宴が開かれたのと同じ部屋である。卓上にはカレイの煮付けとだし巻き卵が並べられていた。テーブルの横には炊飯器が控えている。昨夜ほど豪勢ではないにしろ、いつも喫茶店のモーニングで済ませてしまう私にとっては十分すぎるもてなしだった。
 おはようございます、と皆に挨拶してから座布団に腰を下ろす。
 私と勝春以外の全員が既に着席していた。主人と客は最後に起こす、ということだろう。
 さりげなく全員の顔色を窺った。緑は例によって無表情。梢は昨夜の遺言云々で応えたのか、目が充血している。金山は空木と談笑しているが、その顔はどこか曇っている。そして私は……。
 私は結局あの後一睡も出来なかった。目の下の隈はますます濃くなり、体の節々に疲労を感じる。――それでも、この家にいる間だけは、みっともない振る舞いをしないように気を張っておらねば。
 緑が全員の湯飲みに茶を注いだ。熱い茶は気分を変える。私は有難く喉に流し込む。冷えた身体が内側からじわりと温まる。
 勝春の席の前にも湯気の立った湯飲みが置かれたが、主人はまだ来ない。
「勝春さんは、まだ来ぃへんのですか」
 空木がくいっと緑に向き直って訊いた。
「ええ。起きていないようで」
 困惑顔で、緑は応える。
 ――起きていない?
 それはおかしい。今はもう六時半である。水星の報告によれば、真山勝春は毎朝五時には起床するのだ。
 私と同じことを考えたらしく、空木が首を傾げた。
「起きてないって、母屋にいらしてないだけと違いますか。いつも勝春さん、別棟で寝てらっしゃいますやろ」
「いえ、内線で呼んでみたのですけれど」
「返事がない?」
「ええ」
「それやったらほんまに起きてへんのかなあ。昨日、結構飲んではったし」
 いや、起きていないのだとすれば、それは酒を飲んでいたせいではあるまい。昨夜二人で会ったときには、勝春は素面の言動だった。それに(これも水星の情報だが)、勝春は翌朝までアルコールの影響を残すような体質ではない。ならば……。
 話しているうちに不安になってきたのか、緑が立ち上がる。
「私、主人の様子見て参ります。どうぞ皆さん先にお召し上がり下さい。梢、ご飯とお味噌汁、お出しして」
「あ、僕も行きます。もし万が一があったら事ですよって」
 緑、空木が出て行き、梢も遅れて台所へと向かった。
 残ったのは私と金山だけである。
 二人とも、黙って一口、茶を啜る。
 湯飲みを静かに置いて、私は金山に話しかけた。
「金山さん」
「はい」
「昨夜の遺産相続の話、知ってらっしゃいましたか」
「――いえ。初めてお聞きしました。勝春様があのようにお悩みになっていたとは……」
「どう思われますか。――いや、法律上あの遺言が成立するかという話ではなく、むしろ、金山さんご自身の考えがお聞きしたいのですが」
「どう、と言われましても……」
 金山は眉をひそめて、考えるような素振りをした。
 梢はまだ戻ってくる様子はない。私は金山に話してくれるよう目で促す。
 燕尾服の老弁護士は――朝から燕尾服なのか――卓上の湯飲みから視線を上げないまま口を開いた。
「正直、納得が行っておりません。わたくしが申し上げるようなことでは勿論ありませんが……、それでも、それなりに長い間、この真山家と懇意にして頂いておりました。あの家族思いの勝春様が、緑様や梢様、それに風間様のことを蔑ろにするような決断をなさるとは、どうも腑に落ちないのです。何かお考えがあってのことなのでしょうが……」
 最後は呟くようにして、再び押し黙った。
 これなら、と私は密かに期待する。
 どう切り出そうか、と考え始めたところで、梢が戻ってきた。三人分の味噌汁をお盆に載せている。彼女は何も言わず、目も合わせずに、私たちの前にその椀を並べていく。相変わらず、旧家の令嬢としては問題のある態度だ。
 ご飯を盛ろうと、彼女が炊飯器の蓋を開けたとき、突然慌しい足音が聞こえてきた。
 何事かと真っ先に反応したのは私で、襖を開けて廊下を覗き込むと、殆ど目の前に空木の顔があった。
 どうしたんです、と問うより早く、空木が青ざめた顔で叫ぶように言った。
「勝春さんが――殺されてはります」
スポンサーサイト
しましま1号
お、ようやく事件が・・・。
2007.07.17 Tue 12:58 URL [ Edit ]
とりねこ。
お、お待たせしました…(平伏)
2007.07.17 Tue 14:35 URL [ Edit ]
管理者にだけ表示を許可する

TrackBackURL
→ http://nebakura.blog83.fc2.com/tb.php/87-1530ad35
Template by まるぼろらいと
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。